今年がホントの電子書籍元年!?

昨日(2010年12月9日)放送の「カンブリア宮殿」(テレビ東京)は、電子書籍元年 × 村上龍~「変化」に怯えるか?
ワクワクするか?~」
と題して、今年、iPadが巻き起こした電子出版の大きなうねりを特集していました。MCの村上龍氏も、今年は新作小説をiPad向けに出版したり、電子出版の会社を立ち上げたりで、大きく電子出版にシフトされたようです。

これまで、日本では何度か、電子出版を立ち上げる動きがありましたが、すべて普及せずに終わっています。1980年代終わり頃には、EPWINGというCD-ROMを使った電子書籍の規格が登場していましたが、あまり普及しませんでした。最近では、2004年に、ソニーがLIBRIéという電子ブックリーダーを発売しましたが、これも普及には至りませんでした。
では、今回も普及せずに終わるのでしょうか?
それにしては、出版業界、印刷会社、作家たちが、慌てているような気配がありますが…。
とりあえず、日本に限定して話をしますと、これまでの電子出版の立ち上げ時と決定的に異なるのは、先にハードウェアが売れていることです。これまでは、専用ハードウェアと電子書籍の規格がセットになっていることが多く(PCにソフトを入れれば閲覧できるということもありましたが)、結局、ハードウェアを売るにはコンテンツが必要なのに、そのコンテンツを集めることに時間がかかり過ぎて、立ち上げがうまくいかずに終わってしまうということが多かったのです。
今回は、iPadという、iPhoneやiPod Touchでの成功の延長線上にあるスレート型の端末が市場に普及し、その上で本が読めるということになったために、一気に、電子出版化が加速しています。
これまで、日本ではコンテンツを集めることが難しいとされていました。それは、日本の出版業界の慣習?として、著者との間では書籍の出版についてのみ、権利を受けて出版することが多く、その書籍を電子化する権利などは著者に残されているからです。そのため、コンテンツを集めようとすると、出版社と包括的契約という処理はできずに、個々の著者と新たな電子出版に関する契約を結ぶことになるからです。


このため、村上龍氏のように、自分で電子出版の会社を設立する人が現れるわけです。そうすることで、出版社や印刷所を介さなくても、自分の本を読者に届けることができるわけです。
やはり、今年が電子書籍元年なんでしょうか。
僕には、一つ、気になっていることがあります。
それは、電子出版をする際に、結局、紙の本をモデルにして、電子ブックも作られていることです。私たちは、紙というメディアを発明して、それを一定の大きさに裁断して、そこにインクで文字を印刷する技術を開発して、本というものを作ったわけですよね? 本は、紙というメディアの特性や制約によって、あのような形に出来上がったものです。
電子出版は新しいメディアです。スレート型の端末に文字を表示して情報を読者に伝えるわけですが、その方法は必ずしも紙の本のようである必要はないのです。むしろ、まったく別の電子ブックという形が作られるべきなのだと思います。スレートの上であっても、基本的には紙というメディアをメタファーにしているために、ページをめくったり、ブックマークしたりする電子書籍が現れていますが、まったく違うインターフェイスの本があっても良いのです。たとえば、流星群のように文字が自分に向かって飛んでくるような本とか、アニメーションの中に文字が動き回っているものとか…(これらは例として挙げているだけで実用性がある例だと思ってはいません)…あるいは、もうあまり文字に頼らずに、音声速読してくれる本であっても良いのかも知れません。
グーテンベルクが活版印刷を発明して、紙の書籍を世に出したように、私たちは電子メディアという新しい媒体になったときの書籍の形を発明する必要があるのではないでしょうか。これまでの出版業界、印刷業界は、そういう全く新しい書籍の形を発明していかないと、存在価値が失われてしまうような気がします。もちろん、一部の作品としての書籍はまだまだ残っていくでしょうが、逆に、実用的に消費されているフィクション、ノンフィクション作品などの書籍や雑誌は、急速に消えていくのではないかと思います。CDショップが街から姿を消してしまってきているように、書店もまた、特徴をもった店舗経営をしていかないと、閉店を余儀なくされると思います。
iPadが市場に出て、出版ビジネスにも大きな影響を与えたという意味では2010年は一つのマイルストーンだったと思いますが、2011年には、もっと新しい電子出版の形が見えてきて欲しい…新しい電子書籍の誕生という意味での元年になって欲しいと思っています。