マレーシアの華人


マレーシアというと他民族、多言語国家であり、首都のクアラルンプールは近代的な建物が立ち並んでいるというイメージを持っていました。そして、ブミプトラ政策(マレー人優遇政策)のことも、なんとなく聞いたことがありました。そんなあやふやなイメージしかないままに2度ほど、マレーシアに行きましたが、そのときは単なる旅行でしかありませんでした。
2004年8月、タイに住んでいた僕は5日間ほどマレーシアに出張させてもらいました。タイでの仕事を通じてペナン島にある教育研究機関の人と知り合うことができ、日本でマレーシアの言語政策研究をしている友人(社会言語学者)をその研究機関に紹介することになったのでした。

この旅の中で、言語政策調査を通じて、僕たちはペナンに住むある華人家族と知り合う機会がありました。夫婦と子ども2人。長男は日本の大学に留学していて、長女は高校生という家族構成でした。ペナンには華人が比較的多く住んでいて、中国語での教育を行う初等・中等教育もあるようでした。このような環境の華人家庭の子どもたちは、学校では中国語を中心にしながらも、中国語のほかにマレー語と英語を学習しています。当然、街に出ればマレー語が溢れている社会ですから、マレー語には常にさらされている環境です。しかし、話を聞いて驚いたのは、この家庭では母親と話すときには英語を話させたというのです。
家庭では英語と中国語、家から一歩外に出るとマレー語という環境です。このようなマルチリンガル環境のおかげで、この子どもたちは、中国語、英語、マレー語を流暢に話せるようになったのだと思います。そしてこの家庭の長男は、さらに日本語も流暢に話せるようになっています。
話をきいてみると、華人は教育に対してとても熱心で、子どもの教育に投資することを惜しみません。それは金銭的なことも、それ以外の努力も含みます。そして、マレーシアの華人として生きていくためには、マルチリンガルであることは最低条件のように考えているようでした。
ほんの数日のマレーシア出張でしたが、それまでの旅行者としてのマレーシアの印象とは違って、多民族、多言語社会の政策の難しさを、つくづく考えさせられました。