インターネットが変えていくテレビ

熊本地震が発生して1週間以上が経過しました。
4月14日夜に最初の地震(当初は本震と思われていましたが、後に前震と呼ばれるようになりました)が発生した直後から翌日の夜までは、テレビ局各社はほぼ特別報道番組が放送されるようになりました。

各テレビ局(ネットワーク)は現地に取材団を送り込み、被災地の取材を開始。朝、昼のワイドショー番組も、地震報道だけになり、現地からの生中継が多く放送されました。中でも、当初は被災地の状況を映し出そうとして、それぞれのテレビ局がヘリコプターを使って上空から中継し、家屋が倒壊して救助作業が行われている現場でも、低空飛行をしながら中継していました。

この災害救助現場におけるマスコミの取材ヘリコプターの低空飛行問題は、阪神淡路大震災の頃から問題視されてきましたが、その後も災害のたびに同じことが問題視されてきました。何が問題なのか。いろいろ問題はあるのでしょうが、一番の問題は、倒壊した家屋の下にいる人に声をかけながら救助している現場上空で低空飛行するヘリコプターは、とても大きな騒音で現場をつつみ、被災者の助けを求める小さな声をかきけしてしまうことです。

マスコミの取材ヘリコプターには、何か規制はないのでしょうか。気になってネットで検索してみると、日本新聞協会は1997年に航空取材要領を策定し、日本民放放送連盟も航空取材ガイドラインとして、日本新聞協会の航空取材要領に則った取材をすることと決めたことがわかりました。しかし、この要領には飛行している航空機同士の安全確保と周辺住民に迷惑をかけない等の内容は書かれているものの、飛行高度の制限や救助現場への配慮が書かれていません。おそらく、災害の直後に現場に向かっているテレビ局のアナウンサーやレポーターには、この航空取材要領に書かれている内容も理解されていないのでしょう。その後の災害でも、災害がおさまったあと、繰り返し同じような問題点が指摘されてきたようです。

そして今回も、被災地を低空飛行しながら飛び回るヘリコプターが数多く見られました。しかし、今回と過去の災害のときとの大きな違いが一つあります。それは、今はSNSという、個人が情報や意見を発信するメディアがあるということです。被災地の取材が始まって2日くらい経過したとき、このヘリコプターの問題を含め、現地でのマスコミの人々の行動に対する問題点が、ネット上で指摘されるようになりました。これらの問題については、当の本人であるマスコミは一切報道していません。しかし、きょう、ある変化を目にしました。ある昼間のワイドショーを見ていたら、また、ヘリコプターが飛んでいたのですが、よく見ると、かなり上空からの映像でした。そして、ヘリコプターからリポートしているアナウンサーが「1200m以下を飛んではいけないということなので・・・」(たぶん1200mと言っていたと思うんですが、テレビから離れているときに聞こえたので数字の聞き間違いはあるかも知れません)と高度が高いことの言い訳をしていたのです。どのような形で高度制限ができたのかは、よくわかりません。そのテレビ局の自主規制なのか、あるいは新聞協会や民放連の取材協定のようなものができたのか、いずれにしても、SNSによって批判が高まっていったヘリコプター問題に対して、やっと、マスコミが対応したということだと思います。今回の地震直後には低空飛行が多く残念でしたが、過去の災害のときには改善できなかったヘリコプターの低空飛行問題が解決されつつあるように思えます。今後、日本新聞協会や民放連などで正式な要領やガイドラインとして、より倫理観のある取材ルールを作ってほしいと思います。

今回の地震で、もう一つ、テレビが変わったとSNS上で話題になっていることがあります。それは、熊本地震後、テレビでのACジャパンの広告が増えたという批判です。3.11東日本大震災の直後一週間は、ほとんどのテレビ番組が特別報道番組となり、テレビCMスポンサーはCM放送を自粛して、その空いた枠を埋めるために、ACジャパンのCMが繰り返し放送されるという異常事態に陥りました。現在、ネットでは、熊本地震の後にACジャパンのCMが増えたという声が増えてきていて、3.11を思い出すからやめてほしいなどの批判も聞かれるようになってきました。

僕もACジャパンのCMが増えてきたと思っていますが、そう思い始めたのは地震が起きる前のことでした。ただ、そう感じ始めたのが3月からなのか、4月に入ってからなのか、はっきり覚えていませんが、とにかく今月の始め頃から、ACジャパンのCMを見る頻度が上がったと感じるようになりなした。特にそう感じたのは、ドラマなどゴールデンタイムと呼ばれる夜の視聴率のピーク時間帯の放送にACジャパンのCMが入るようになっていたからです。かつては、ゴールデンタイムは一番視聴率が取れる時間帯ですから、その時間帯にCMを放送したいスポンサーも多かったと思います。その時間帯にACジャパンのCMが流れることは、3.11の震災のとき以外、見た記憶はありません。しかし、今月に入ってから(もしかしたら、もうちょっと前から)、ACジャパンが増えてきたように思います。

地震後には、さらにACジャパンのCMが増えている可能性はあります。スポンサーによっては、CM放送の自粛をしていると思えるからです。たとえば、住宅メーカーや食品メーカーは、いま、被災されている方々の状況を配慮して(というか、クレームが来ることを避けようとして)、自粛しているのではないかと思います。でも、すべてのスポンサーが自粛しているわけでもないでしょう。3.11直後にすべてを自粛してしまい日本全体が萎縮してしまったことへの反省として、今は、熊本を支援するためにも、他の地域の人たちはふだん通りの生活を続けながら、支援できることをするという意識があると思います。ですから、そんなにCMを自粛する必要もないと思います。でも、もしかすると、スポンサーの中には、これを機にテレビCMを見直そうとするところも出てくるかも知れません。それは、日本のテレビ事情が変わりつつあるからです。

今年2月、NHK放送文化研究所が「2015年国民生活時間調査」という報告書を発表しました。この報告書によると、1995年から2015年の20年間で、テレビを見る人の割合が7%ポイント減少したということです。しかし、これを見て思ったことは、もっと減っているんじゃないの?ということです。そして自分のテレビ視聴について考えてみました。

何を隠そう、僕は超テレビっ子です。テレビをつけている時間で言えば、家にいる時間の大半になるのではないかと思うほどです。しかし、視聴の質を考えると、今は、「ながら見」が多いです。ネットでいろいろな検索をしたり、メールを書いたり、アプリを探したり、LINEしたり・・・いろいろなことをPCを使いながらやりつつ、テレビを視聴しています。特に、メールを読んだり書いたりしていると、テレビの内容はほとんど頭に入ってきません。(たぶん女性はながら見でも、耳から情報が入ってくるでしょうが、男性の脳は一つのことに集中すると他の内容が入ってこない傾向があります。)

いま、インターネットを使うと面白い映像をたくさん見つけることができます。YouTube、ニコニコ動画やVineなどの動画サイトでは、面白い動画を投稿している人たちが増えています。YouTuberという人たちが現れ、それで生計とたてている人もいるほどです。これらの個人も一人ひとりが1チャンネルだと考えてみると、現在、動画を視聴できるチャンネルはかなりの数にのぼり、既存のテレビ局は、それら個人たちとも競争しなければならない時代を迎えています。

4月11日、Abema TVというネットテレビが開局しました。IT大手のサイバーエージェントとテレビ朝日が作った新しいネットテレビで、24時間20チャンネル以上の番組が放送されていて、スマホ、タブレット、PCの端末を使って無料で見ることができます。たまたま、なんとなくどんなものか見てみようと思って、スマホとiPadのアプリをダウンロードして使ってみたら、ニュース、天気予報、株式相場などの生放送番組あって、結構、面白くて驚きました。チャンネルを換えるのも、iPadならスワイプでOK。インターフェイスの簡単さも良い感じです。中には、猫がえさをたべているだけの中継映像もあったりして、何のための中継かがよくわかりませんが(笑)、でも、ライブ映像の面白さを再認識させられます。

Abema TV以外にも、いろいろな企業がネットTVに参入してきています。電波を使って放送するテレビ局を開設するのは、とても難しく、新規参入も難しいと思いますが、ネットテレビへの参入はハードルが低く、それこそ個人でも、自宅にサーバーを用意して、ミニ放送局を作ることも、それほど大変なことではありません。

インターネット、そしてその上で広がっているSNSなど、新しい形のメディアと動画サイトの普及により、既存のテレビ局にとっては、苦難の時代が到来したと言えるでしょう。僕は、テレビっ子ですし、電波(無線)で情報を送るというメリットがあるので、地上波で放送されるテレビもなくならないと思っていますが、インターネットを経由して流れていくメディアがメインストリームになる可能性はとても高く、既存のテレビ局は、無線であることのメリットを活用したり、これまで以上に、報道やコンテンツの質を上げていく努力をする必要があると思います。